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宣伝用の冷蔵庫は職人が作る [超ショートショート]

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「宣伝用の冷蔵庫は職人が作る」
僕がこの会社に入って最初に教えられたのが、この言葉だ。

AIや工業用ロボットの発達により
人間がしなければならない仕事はどんどん失われてしまった。
今や、工場で働いている人間は
AIやロボットのフォローをするための数人がいるだけだ。
その仕事だって、年に数回、簡単な確認をするくらいだ。

会社そのものだって
経理や、総務、顧客対応、営業、広報、などなど
ほとんどがAIがやってしまう。

極端な話、割と大きな会社だって、社長さえいれば何とかなってしまうのだ。


そんな世の中になっているのに
僕はこの会社に入ることができた。
有名な大学を卒業している訳でも、特別な資格を持っている訳でもない。


緊張しながら、初出勤。
案内用のロボットに工場を一通り案内され
社長室へ入った。
想像していた立派な社長室のイメージとは程遠い簡素な部屋。
一般的な事務机が一つあるだけで、応接セットさえなかった。
社長は、入室してきた僕を見るなり
「宣伝用の冷蔵庫は職人が作る」と教えてくれた。

全ての事に決定権を持っているAI社会。
宣伝用の冷蔵庫もAIに作らせれば、最高の冷蔵庫を作る事ができる。
しかし、最高のものが必ずしも最良の結果を得る訳でなないのだ。
作る側もAIなら、またそれを買う側もAIなのだ。
いや、厳密には人間が買うのだが、
まずはAIのフィルターを通したものの中から製品を選択するので
AIに選択してもらわなければならない。
似たような最高の冷蔵庫から抜きん出るためには、AIが思いつかないような発想が必要なのだ。
まともなAIであれば、決して考えつかないような出鱈目な冷蔵庫。
それは人間でないと作り出せない。
だから「宣伝用の冷蔵庫は職人が作る」事になるのだ。



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