脱出 [超ショートショート]
私はどうしても、ここから外にでたいと思った。
外に出るためには、3つの大きな障害がある。
一つ目は、監視がいること。
二つ目は、手足が拘束されていること。
三つ目は、得体のしれない薬を打たれていることだ。
しかし、私は決して、あきらめない。
やるだけのことはやってみよう。
まずは、監視。
それは大きな問題にはならないだろう。
見るからにやる気のなさそうな素振りの監視役は、私の説得に簡単に応じそうだ。
ちょっと金をちらつかせれば、大した時間もかからずに落ちそうだ。
次に、手足が拘束されていること。
これも第一の問題が片付くことで、解決される筈だ。監視をこちらに篭絡することで、拘束をすぐに解いてくれるであろう。
最後にして、最大の問題が得体のしれない薬を注射されていることだ。
今のところ、体調に大きな変化は見られないが、この注射が自分を拘束しておく目的のものだとは限らない。
遅効性の毒薬かもしれないし、何かのウィルス、病原菌かもしれない。
有効な解毒剤、ワクチンがここにしかなかった場合、外に出てしまうことで、命を失ってしまうばかりか、周りの人々の生命まで危険にさらしてしまう可能性がある。
しかし、一刻の猶予もありはしない。
どのみち、このままでは助からないのだ。
何もしないよりは、とにかく足掻くしかない。
私は、一つ目、二つ目の問題を解決すべく、監視役に話をした。
結果・・・
彼らは、私を全く相手にしてくれはしなかった。
それどころか、「また、いつものが始まったよ」と呟いて、笑っているだけだった。
おかしい。そんな筈はない。
私の有り余る財産に揺らがない人間などいる訳がない。
このままでは、私はもうおしまいだ。
「また、いつものが始まったよ。
1000万円渡すからここから出せって。はははは・・・。
お金なんて、どこにあるのかね。
昔は確かにお金持ちだったみたいだけどね。
最近は暴れて、他の入居者に暴力をふるったりするから
仕方なく、拘束具をつけて、鎮静剤をうたなきゃならないんだよ。
可哀想だから、中庭くらいには連れて行ってあげたいんだけどね。」
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