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どっちが地獄? [超ショートショート]

熊.jpeg

このまま進むなら天国。
ここに留まるなら地獄。

実は、今まさに熊に追われているのだ。
だから、このまま留まる事は死を意味する。
熊に出会ったら、死んだフリをするのがいいというデマがあるがとんでもない話だ。
熊の爪や歯でもって体をまさぐられて、意識のあるまま正気でいられる人間はいないだろう。
撫でられるような優しい体の触れられ方をするわけではない。
ひと撫でされれば、ざっくりと肌や肉が裂けてしまう。

よくあるこういう類の二択では、進む方が地獄であることが多い。
しかし、今回は留まる方が地獄なのだ。

人生においても留まることは、地獄とまでは言わないが、
現状維持ではなく後退になると思う。
一見、いつもと変わらない日常を送っているように思えても、
日々何かを為している人間は日々成長している。
少しづつでも進んでいるのだ。

今現在は、熊に追われているのだから、留まれば当然のごとく死が待っている。
それもただ死ぬわけではなく、ものすごい恐怖を受け、とんでもない痛みを味わい、想像するのもはばかられるほどの悲惨な死になるであろう。
なぜ、突然、熊に追われたのか。
それを説明するには、時間が足りなすぎる。
もう今、まさに熊に追いつかれようとしているんだから。

審判の時がきた。胸がドキドキする。
胸がドキドキするなんていう軽い表現では
この感情は、全く追いつくものではない。
しかし、ドキドキ以外の表現を思いつくほどの余裕もない。
余りにもドキドキし過ぎて居て、
熊ではなく、このドキドキに殺されてしまいそうだ。

熊の足は速い。走ったところで追いつかれてしまう。
なるべく早足で歩き続けたが、もうすぐ後ろに熊の気配が感じられるようになってしまった。
森を通り抜けると突然、風景が開けて見えた。
向こうにある山が一望できるような場所。
それは一歩先に行けば崖下に転落してしまう場所だ。
もう、これ以上先に行くことができない。
とうとう熊に追いつかれてしまった。
振り向くと、熊の大きな前足が私の右肩から、袈裟切りに振り下ろされようとした。
その瞬間、熊の大きな巨体が地面に崩れ落ちた。
私は助かったのだ。


熊は何かの病原菌に侵されていたようだ。
そういえば、熊は怖がりなので、人間を襲うことは滅多にないと聞いたことがある。
今回、私を襲ってきた理由も病原菌によるものなのかもしれない。

なぜ、私が病原菌に侵されていたことが分かったのか。
その病原菌を作ったのが私だからだ。
熊の目は青黒く濁っていた。
その症状は、病原菌に侵された動物に起こる典型的な症状なのだ。

全くの偶然で生み出された病原菌。
動物の凶暴性を極限までに高める。
数時間、暴れ回った後、身体中が腐ったようになり死んでしまう。

私は自分自身の研究に恐ろしさを感じ、全てを消し去ろうと決めた。
この恐ろしい病原菌の研究結果を全て破棄して
私自身もこの世から抹消しようと、山の中に入ったのだ。

ところが気づかない間に
私自身も病原菌に汚染されていたようだ。
人間に感染しても、凶暴性が増すことはないようだが、
熊が感染してしまったのは私が原因に違いない。

体を動かすことができなくなってきた。
もうすぐ私は死んでしまうだろう。
このまま私が死んでしまえば、この山の動物たちを介して
一か月もしないうちに、この病原菌は日本中に広まることだろう。

私が熊から助かったことは、果たして天国なのか、地獄なのか。。。


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この雨は止むのだろうか [超ショートショート]

豪雨.jpeg

突然の豪雨によって私たちは○○川の川沿いにある小さなバラック小屋に避難することになった。
雨足はどんどん強くなっているし、川の水位は確実に上がってきている。
私たちは今後、どのように行動したらいいかを話し合っていた。

Aさんの意見はこうだ。
今すぐこの場を離れよう。
この雨は当分止みそうにない。
天気予報でもそう言ってたし、実際雨足も強い。〇〇川が決壊するのも近いのではないか。

Bさんの意見はこうだ。
このままここに留まって雨宿りをしている方がいい。
この雨はまもなく止むことだろう。天気予報なんてものは目安に過ぎない。
すぐにこの小屋を出て、びしょ濡れになるなんて真っ平ごめんだ。
実際、どうなるか予測出来たら、災害被害なんて出る訳がない。

どちらの意見ももっともなように思えた。
そのとき、突然、部屋の電気が消えた。
これには、その場にいるすべてがパニックを起こした。
雨の影響で停電でもしたのか?と誰しもが考えたのだ。間違えて電気のスイッチを消してしまった私以外は・・・。

停電(実際には、スイッチを切っただけなのだが)が起こったことで、そこにいる全ての人が、Aさんの意見を支持した。反対意見を呈したBさんでさえも。
事の真相を知っている私も、とりあえずは多数決に従う他なかった。
ここで、皆さんはこう考えるだろう。
「べつに意見に従う意味はない。ただ、間違えてスイッチを消したと報告するだけでいいのではないか」と。
しかし、それはできない相談だ。
何しろ、停電した瞬間(実際には電気を消しただけなのだが)の、人々の狼狽ぶりは常軌を逸していた。
皆、雨によって閉じ込められていることに、少なからず不安を感じていたようである。
その不安な状態に、追い打ちをかけるように停電(実際は電気を消しただけ)。
抑えていた恐怖のタガが外れてしまって、ものすごい感情の爆発が起きたのだろう。
だから、そこに居る全ての人が「しばらく雨は止まない」派に簡単になびくことになったのだ。

ああ、どうしたらいいんだ。
単にスイッチを切っただけなので、特に深刻な事は起きない筈なのに。
ここから出てぐしょ濡れになるのは嫌だなあと思いつつ、
私はそのまま黙っている事にした。


私たちがその小屋を後にした直後
その場に残されたラジオからこんな放送が流れた。

〜臨時ニュースをお伝えします。
昨夜より降り続けている強い雨の影響で
〇〇川が決壊する危険があります。
〇〇川の近くにいる皆様は、直ちに避難してください。〜



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超ショートショート その1 [超ショートショート]

電話.jpeg

私はこのままこの地に留まるか、全てを諦めて故郷に帰るか迷っていた。
実はこういうことだ。
昨年、友人と立ち上げた新事業。どういう訳か、その友人が姿をくらましてしまったのだ。

彼とは大学に入学した年からの付き合いだから、もう30年以上もの付き合いになる。
初めて会った時から、ウマがあった。
まるで、生まれる前から、そう決められていたかのように
お互いの考えることが分かり、気を使う必要が全くなかった。
そんな訳で大学在学中は、常に一緒に居た。
流石に、一緒に暮らすようなことはしていなかったが、毎日のようにどちらかの家に寄っていた。
同じものを見て、同じものを食べ、
同じことに怒り、笑い、悲しんだ。

しかし、大学を卒業してからは、就職先が遠いこともあり、疎遠になってしまった。
最初のうちはお互いに遊びに行ったりしていたが、仕事が忙しくなってくると
そんな余裕も徐々になくなり、たまに電話で話をするくらいになり、
そのうち、その電話さえもしなくなってしまった。

ところが、3年前、私の転勤により、彼と同じ街に引っ越すことになった。
引っ越しすることが決まって、久しぶりに電話してみたのだが
時間が戻ったかのように話すことができた。
それ以来、また親しく付き合いをするようになった。

お互い家庭を持っているので
大学時代のような付き合いにはならなかったが
元々同じような考えを持っていたこともあり、
違う経験を積んだ中で得てきた新しい考えも、お互い新鮮に聞くことができた。

そうした付き合いの中で、二人で事業を起こすことになったのだ。

事業を始めた当初は何もかも順調というわけにはいかなかった。
かと言って、すぐに潰れてしまうような状況にもならなかった。

そんな中、彼の昔の知り合いだとかいう人が繋いでくれたことで
大口の取引先を得ることができた。

この取引が成功すれば、確実に事業は軌道に乗るはずだ。
私たちは毎晩、遅くまで企画を練り上げ、
先方のゴーサインも出て、明後日サンプルを届ければ
晴れて契約成立というところまで持ち込めた。

ところがだ。
彼が突然居なくなった。
たった二人でやっていた事業だったし、お互いの考えは分かりすぎるくらい理解している積りだったので、相手がやっている仕事にいちいち干渉するようなことはしてこなかった。
サンプル作成の会社は彼がギリギリまで粘って、ようやく探し出した所なので
連絡先も何も聞いて居なかった。
私の不手際といえば、その通りなのだが
自分の分身とも思える彼に任せておけば、万事がうまくいくと思ってしまったのだ。
もし、今回の事が、こちらの不手際でうまくいかなかったとしたら
業界に悪い噂が広まり、今後事業を続けることは、まず無理だろう。
つまり、今回失敗すれば、事業を畳んで田舎に帰るかどうかの大きな出来事なのだ。

最終結論の日は明日だ。
それまでに彼と連絡が取れなければ、全ては終わりだ。


悶々としたまま、夜があけた。
朦朧とした頭で私は自分が大切なことを忘れていることに気が付いた。

そう、私は彼の安否を心配していなかった。
事業が成功するかどうかばかり心配し、これほど連絡が取れない彼の状況を気遣うことをしていなかった。
私はなんと愚かな男なのだろう。

そう気付いた時、電話が鳴った。

・・・・・・・・・・・・・・

私には事業は向いていない。
親しい友人が抱えている悩みに気づけないくらい余裕がなくなってしまうのだから。
私は全てを諦めて故郷に帰ることにした。



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